優れたコーチングとは何でしょうか。多くの指導者が陥りがちな「教えすぎ」の問題から、真に効果的な指導法まで、実践的な観点から詳しく解説します。コーチの役割は答えを与えることではなく、選手が自ら答えを見つけられるよう導くことなのです。
教えすぎるコーチの問題点
答えを与えることの弊害
教えすぎるコーチは、答えを与えようとしています。しかし、コーチの仕事として大事なことはそこではありません。
真のコーチングとは
- その問題を「考えるきっかけ」を与える
- 問題を整理して仕分けする
- 順番をつける
- 答えを見つけやすい状態にしてあげる
「一番問題があるのはここじゃないかな」「次はこうじゃないかな」と提案することです。それを実際の「解決」に結びつけるのは子供自身なのです。
答えまで導いてあげる、それがコーチングの正しいスタンスです。
「押し付け」vs「提案」の違い
よくある相談事例
「今のコーチと合わない」という相談があり、話を聞いてみると、そのコーチは自分の意見の「押し付け」が過ぎるケースが多いです。
大切なことは「提案」であるのに、自分の出した解答を「押し付け」ているのです。
子供の納得プロセス
子供が納得するまで説明できていれば、子供なりの「解答」を見つけるかもしれません。しかし、それがなくて、ただ一方的に「押し付ける」ことは、子供にとってはとても窮屈になります。
気持ちに寄り添うことの重要性
大切なことは気持ちに寄り添うことです。特に女の子は共感を求めることが多いので、とても大事です。
苦しんでいるのであれば、「一緒に苦しんでいる」と伝えることで十分な場合もあります。アドバイスなんてその次であって、しないほうが良い場合なんてたくさんあります。
問題のあるコーチの特徴と原因
3つの根本的問題
1. 説明できない理由
- 「知識」が不足しているから
2. 押し付ける理由
- 自分の意見が正しいと無理やり示したいから
3. 寄り添えない理由
- 弱い自分を見せるような気持ちになるから
どれもコーチの本質とは真逆のことです。
自信不足の表れ
そういうコーチはたくさんいますが、「自信」がない証拠です。だったらそれを埋める努力をすることです。
その時、主体は子供にあることを明確に意識すべきです。
避けるべきコーチ
そういうコーチに巡り合ってしまった人は、早々に離れるべきです。なぜなら、そういう傾向の強い人は自分の考えを変えることのできない人だからです。成長できません。
説明責任とリスクテイキング
コーチの説明責任
コーチというのは説明責任があります。
説明すべき内容
- 今やっている練習・トレーニングがどんな効果があるのか
- それをすることで何がどう改善されるのか
- どのように成長していくことができるのか
ちゃんと説明し、理解してもらい、納得して取り組んでもらう。そうやって成果が高まるのです。
説得力の不足
その説得力が足りない、そう思うことは多いです。
「~だと思う」「~じゃないか」など、言い切っていないどっち付かずの意見では、相手には響きません。
リスクを取る覚悟
こうして断言するからには、それがうまく行かなかった時は責任を取るというリスクはあります。でも、コーチングに限らず、仕事を進めていく上で、リスクを取ることなしに大きな成功はありません。
多くのコーチが陥る罠
多くのコーチはこれを回避する傾向が強いです。それが強いと断言を避け、非難されないようにするために、自分の意見を一方的に押し付けようとします。それは非難を恐れている行動なのです。
正しいアプローチ
なので、リスクをとってもちゃんと説明することです。そして、そのリスクがより小さくなるように、知識を深めて自分の意見をまとめていきます。
何事もこれで完璧はありませんが、できる限り効果的な指導になるように、日頃から情報を集め、説明して納得してもらう。そういう説得力はコーチには必要です。
伝え方は人それぞれ
わかりやすさの限界
コーチはわかりやすく説明することが大事ですが、わかりやすい内容がすべて良いのかということ、そうではありません。
身体感覚の指導例
例えば、身体感覚を高めるためのトレーニングは、より効率的に身体の能力を高めるために必要なことですが、目に見えるものではありません。数字として明確に示せるものではないので、説明は大変難しいのです。
個別対応の必要性
なので、ひとつの説明の仕方だけで事足りることはありません。人によって身体の感覚が違うからです。
だから、ある人はこういう説明で、ある人には違う説明で、なんてことはよくあります。よく観察して、その人の感覚に合わせるように導いていくのです。
難しいことほど重要
簡単に説明すれば誰でも簡単に成果を上げられる、そういうものであれば、誰でもそれさえすればいいということになりますが、そんなことはありません。
そういう難しいことに、実はいちばん重要なポイントがあることのほうが多いです。それを説明できるように言葉を選び、面倒を嫌がらないように丁寧に説明し、指導していくように心がけています。
自分で追い込めるように
練習に対する一般的な考え方
「練習は嘘をつかない」とか「辛い練習こそが強くなるための唯一の方法だ」なんて言葉を聞くことはありますが、確かにその通りだなあとは思います。
適正な練習量の重要性
気になっているのは、適正な練習量です。ケガはつきものとは言っても、ケガをするということはオーバートレーニングの可能性も大きいです。それはできる限り抑えておくほうが良いでしょう。
コーチの真の役割
それに、コーチというのは最小限の練習で最大に効率良く上達する方法を考えるものです。
どこまで追い込むのかは選手の問題であって、周りがいくらやいのやいの言っても、本人にその気がなければ「がんばれ!」と声をかけてもあまり意味がありません。
効率的な上達方法の探求
追い込まなくても手っ取り早くうまくなる方法ないのか考える。過去の練習やトレーニングの方法が科学的な検証によって否定され、より効率的に上達する方法が開発されてきています。
それは「追い込まない」という思考が根本にあるからです。
正しいコーチングの姿
方法を徹底的に研究し、その論理を丁寧に説明し、選手が納得して自分を追い込むことができるように意識を高めていく。それが正しいコーチングです。
選手が迷った時には導いていく
「何も教えない」の危険性
教えすぎないことが大事ですが、何も教えなければ良いのかというと、そうではありません。
何も教えないことは、何も考えていない、伝えることがない、ということでもあります。
教える内容の重要性
何を教えるのか、これはとても大事な問題で、「これだ!」と思うコーチの勘は正しいことも多いです。でも、伝え方が悪くては相手に理解されません。それを無理に理解させようとすることが、教え過ぎに繋がるのです。
準備と知識の蓄積
ひとつは選手の質問には答える準備をする、そういう姿勢です。そのためにはたくさん知識を蓄える必要があります。
これはいつも観察して、考えて、伝えるべきことは何かを考えることから始まります。
確信を持った指導
そして、確信がある程度のレベルであれば、ちゃんと言葉に変えて伝えることです。
相手に反論される、自分よりも技術レベルが高い相手であっても、ちゃんと説明できるのか。よく考えて自分なりの答えを導き出すことです。
適当になりがちな状況
相手に自分の強制力が効く場合だと、そのあたりが適当になってしまうことは多いです。言葉の不明確さや足りない知識が明確になります。
それを整理して、相手が理解できる言葉に変え、そして相手の反応をちゃんと見る。そういうコーチングが正しいのです。
信じてもらうために信頼を得る
プラセボ効果の活用
まったく効果のない薬を投与しても、それを効果があるものだと「強く信じる」と、実際の効果が現れます。それはスポーツの世界でもあり得ることです。
思い込みの力
思い込みの効果、自己暗示。自分はできると強く思い込むことで、今までの能力を大きく上回る能力が発揮されます。
思い込みの力だけで、火事場の馬鹿力のように、思いもかけない力が発揮されることがあります。
信頼関係の重要性
その力を引き出すために、信心の力が必要です。それはコーチに対する信頼によって引き出されることもあるので、それを導くために強い信頼関係を築くことが大切です。
効果的なコーチングのまとめ
基本原則
DO(すべきこと)
- 考えるきっかけを与える
- 問題を整理・仕分けする
- 気持ちに寄り添う
- 説明責任を果たす
- リスクを取って断言する
- 個別に応じた伝え方をする
- 信頼関係を築く
DON’T(避けるべきこと)
- 答えを一方的に押し付ける
- 曖昧な表現で逃げる
- 知識不足のまま指導する
- 自分の弱さを隠す
- 画一的な説明に固執する
継続的な成長
優れたコーチになるためには、常に学び続け、選手を観察し、自分自身を客観視する姿勢が必要です。選手の成長と共に、コーチ自身も成長していく。それが真のコーチングの姿なのです。
コーチングは技術だけでなく、人間性が深く関わる仕事です。選手との信頼関係を基盤に、科学的知識と豊富な経験、そして何より選手への深い愛情を持って、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すことが、我々コーチに課された使命なのです。
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